新型コロナウイルスの影響、そしてオンライン授業

先に断っておきますが、この記事は新型コロナウイルスについて誤った情報を拡散するものではありません。コロナウイルスによる影響の報告と、完全オンライン授業に切り替わった感想を書きたいと思います。

 

 つい先週、HarvardやMITで全ての授業がオンラインになり、学生も寮から出て行かなくてはいけないという発表がなされました。

Harvard Moves Classes Online, Asks Students Not to Return After Spring Break In Response to Coronavirus | News | The Harvard Crimson

Update from President L. Rafael Reif to the MIT Community | Covid-19 Response | Massachusetts Institute of Technology

 

また、僕の友人が通っているPrinstonでも寮からの退去命令が出たらしく、続々と影響が肌で感じられるようになってきました。

princeton-cs.hatenablog.com

Berkeleyも例外ではなく、以下のメールにあるように、今学期の全ての授業がオンラインになってしまいました。

 

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西海岸の方が性格的にシリアスに捉えないだろうと高を括っていたのは僕の完全なる間違いで、東海岸の流れを1週間遅れでなぞっているような状況です。ここ数日の状況変化や緊張感はほとんど上のブログそのままなので、そちらを読んでもらった方が伝わると思います。さらに昨日Berkeleyの学生でも陽性反応が出たという連絡が入り、いつ退去命令が出てもおかしくない緊張感に苛まれています。このタイミングで珍しく降る雨にも、何か嫌な予感をされられてしまいます。

数日前までは、「数十年前なら授業自体完全に中止になっていただろうし、まだ勉強が続けられるだけありがたい。」と思っていましたし、自分にとってはマイナーチェンジだろうと思っていました。

ただ、ここ数日で続々と友達が寮から出ていってしまい、キャンパス周りの雰囲気もガラリと変わっていきます。特にヨーロッパからの留学生は航空便がシャットダウンされるかもしれないということで、早急に帰ってしまいました。中には十分に別れの挨拶をできなかった友達もおり、後悔が残ります。

キャンパス内を歩いてみても明らかに人が激減していますし、食堂の話題も急にコロナに支配されてしまいました。

 

オンライン授業に関しても、当初は大きな変化はないだろうと思っていました。というのも、工学系の授業は元々講義がその日のうちにYoutubeにアップロードされるので、僕は講義にはほとんど出席しておらず、後からそれを観て勉強するというスタイルを取っていたからです。教室に出席する意義としては、活発に飛び交う質問や議論に参加できるという点がありますが、それについても、Piazzaと呼ばれる掲示板ツールを使って授業時間に関係なくインタラクティブな議論ができるシステムが整っています。(そもそも僕の履修している授業は履修者が1500人程度いるので直接質問することができない。)

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Piazza: 教授,TA,生徒が相互に発言,議論できる

一つ非常に残念だったのが、2つあるハンズオン演習の片方が中止になってしまったことですが、もう片方はリモートで行うらしく、まだ継続できるだけ幸いだと思っています。パートナーは実家に帰ってしまったので、遠隔でチャットしながら僕が回路を組み立てていくような形になるのでしょうか、多少先行きが不安ですが何とかなるでしょう。

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僕の手に残ったkit

そんなこんなで、現代のテクノロジーを使えばオンラインで大学の授業を運営することは、さほど難しいことではありません。実際に、courseraやedXなどのcertificationつきのオンライン講義は以前から存在していますしね。(そのcertificationがどのくらい意義を持っているのかは定かではありませんが)

一部Twitter上などでは、この流れにあやかって「大学不要説」が呟かれたりしていますし、かくいう僕も、上のような経験からこれからはオンラインにどんどん移行していけばいいと思っていました。昨日もルームメイトと、「30年後ぐらいには社会の教科書に、"Corona Shift"って名前で大学が一斉にオンライン授業に乗り換えた出来事として記録されるんじゃないか」なんて不謹慎極まりない冗談を話していました。

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講義動画の様子

 

しかし、ここ数日間ですら完全オンラインの授業に違和感を持ち始めました。というより、講義は完全にオンラインでも構わないし、日本でもどんどん導入すればいいのにという意見は変わらないものの、そうではない部分の価値が見え始めたということです。

オフラインで得られる価値は相当ありました。

人文学、社会学系の授業は、講義よりもディスカッションに比重が大きいものが多く、優秀な学生と議論を交わす中で得られるものが多くあるように思います。一応zoomによってオンラインで継続されるようですが、かなり障害はあるでしょうし、教室で行う緊張感はなくなってしまいます。(オンラインの方が生徒も活発に発言しやすいという意見もありますし、バーチャル機能を使って講義を行った方が意見が出やすいという観察もあるようですが、ディスカッションに関してはその発言の障壁も含めて勉強という感じがするので、僕としては価値が半減してしまったように感じます。) さらにMBAは人脈作りの側面もかなり強いらしいので、それが失われてしまうことに関しては非常に気の毒に思います。丁度MBAに通う友達ともその話になり、同じような感想を抱いていました。

工学系の授業でさえも、上記のようにハンズオンの演習が消えてしまうことはショックが大きいです。パートナーと頭をひねりながら一緒に手を動かしていた時間はとても楽しく、一部リモートになってしまうことにも、残念な気持ちを拭えません。自分と仲間の制作物を比べながら議論するのは非常に勉強になりますし、自分の考えを必死に伝えようとするときが一番英語力のアップに繋がっていました。恋愛をすると英語力が伸びるという言説がありますが、それと同じ構造で、自分の考えを必死に伝えようとするからです。

それは、コーディング課題で完全にリモートが可能なCSの授業にさえ当てはまります。宿題や演習を行うときは指定の時間に集まって行うことが推奨され、僕もほとんど参加していました。また、ヒッピー文化(ヒッピー - Wikipedia)に由来するバークレーならではのことかもしれませんが、休日でも何百人と教室に集まってみんなで課題を乗り越えようとする時間が設けられていました。ホワイトボードに図や数式を書きながら、

Oh, that makes sense. Thank you!!

と言い合った時間は、それだけでとても尊いものでした。もうそんな時間を味わえないのか、と思うとちょっぴり切ない思いがします。

また、授業で出会う学生たちも個性に溢れ、色々な刺激を得ることができていました。そんな彼らに会って会話をできるのが楽しみで教室に向かっていた側面もありました。一番印象に残っているのが、ブラジルから来た同い年のCSの留学生です。グループプレゼンが一緒になったとき、圧倒的な仕事の速さとリーダーシップで貫禄を放っていたのですが、聞いたことのない名前の小さな町で生まれ育ったそうです。Gmailもエディタから送るような超ギークな彼は、Computer Graphicsの分野で既に何個も研究実績を持っており、いつも楽しそうに研究の話をしてくれました(まあ話が高度すぎて8割ぐらい何言ってるか分からなかったのですが...)。 教育環境はとても良いものとは言えないはずですが、聞けば「必要な知識はインターネットで自分で調べて勉強してきたし、英語もカナダに旅行したことがあるぐらいだけど、ほとんど自分で勉強したよ」とさらっとした回答が返ってきました。天才はこういうところからでもポテンシャルと努力で出てくるんだな、と感じたのを覚えています。彼も明後日に帰ってしまうそうで、突然の別れに悲しまずにはいられません。無事に帰れることを祈るばかりです。

また、これはステレオタイプ的な価値観かもしれませんが、みんなで一つの場所に集まって切磋琢磨している、という意識はモチベーションに繋がっていました。特にアメリカの大学は寮をキャンパスに保持し、コミュニティとしての側面が大きいので、それが失われてしまったことは悲しいです。夜遅くまでみんなと勉強し続けた図書館も、明らかに人が少なくなってしまいました。

寮の友達ともたくさんの思い出ができたので、この突然の別れには驚きを隠せません。昨日からは人と会うたびに "Are you leaving, or staying?" という質問から始まります。寮全体が、混乱と別れの悲しさでどんよりとしています。考えて見ればあと2ヶ月ほどで自然に訪れる別れなのですが、心の準備ができてないと思いの外ショックを受けますね。

今朝も、トイレで友達が帰らなきゃいけないと知り、「パーティーの帰りに泥酔した俺が部屋の鍵を挿せなくなっていたところを助けてくれたよな笑」なんて思い出話をしていたら、ふと涙が出てきてしまいました。

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イギリス人の友達から貰った餞別のヨークシャーティー

 

 

とは言っても、初めに書いた通り、現代のテクノロジーのおかげでオンラインでも授業が続けられるだけありがたいと思っています。自分の捉え方次第では今までと同様に留学生活を過ごしていけるのではないかと思います。Out of controlの部分は考えても仕方ないので、なるようになると思って、できることを続けていくしかないです。

日本にいる皆さんも大変だと思いますが、体調に気をつけてお過ごしください。